2017年4月1日土曜日

国会と「WGIP」

 『徹底検証 日本の右傾化』所収の拙稿「“歴史戦の決戦兵器”、「WGIP」論の現在」への補足、第2弾です。紙幅の都合で省略せざるを得なかった点について書いておきたいと思います。
 前出拙稿では右派論壇の動向を紹介したわけですが、現実の政治にどこまで浸透しているのでしょうか? 一つの目安として国会議事録を検索してみました(期間は江藤の連載が始まった1982年から現在まで)。なお議事録の表記では「ウオー・ギルト・インフォメーション・プログラム」となっておりますので、ご自身で検索される際にはご注意ください。
 これまでのところ、国会で「WGIP」に言及したのは4人。日時と発言者は次の通りです。

・2013年3月27日(衆院文部科学委員会)、田沼隆志(当時自民、のち落選)
・2014年2月26日(衆院予算委員会)、前田一男(自民)
・2014年3月13日(参院予算委公聴会)、浜田和幸(当時国民新党、のち落選)、西修

その他、江藤の『閉された言語空間』が言及されたケースが1例だけあります。2000年11月30日の衆院憲法調査会で、参考人として招かれていた石原慎太郎・東京都知事(当時)によるものです。
 多いか少ないかと言えば少ない、と言ってよいでしょう(そのため、拙稿では言及しませんでした)。ただ、頻度は低いながらも注目すべき点はあります。3件4人の言及がすべて、江藤の『閉された言語空間』の連載中や単行本刊行当時ではなく、第二次安倍政権時代に集中している、という点です。とすると、江藤とは別に、国会議員に「WGIP」を吹き込んだ人間がいるのではないか、という仮説をたてることができそうです。
 その有力な候補の一人が、14年2月に公述人として出席し「日本国憲法の神聖化、タブー化の一つの原点」がウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムにある、と発言した西修氏です。彼は櫻井よしこ氏が理事長を務める国家基本問題研究所(このシンクタンクの役員には他に田久保忠衛、高橋史朗、百地章などが名前を連ねており、日本会議との密接な結び付きがわかります)の理事ですが、櫻井氏にも『GHQ作成の情報操作書「眞相箱」の呪縛を解く』(小学館文庫、2002年)という著作があります。
 3人の国会議員のうち浜田議員については、西氏経由で「WGIP」について知ったという可能性が極めて高いと言えます。というのも、浜田議員自身が「西先生の、私、ウオー・ギルト・インフォメーション・プログラムに関する論文を読ませていただいて」と発言しているからです。この「論文」というのは『防衛法研究』(防衛法学会)第36号(2012年)に掲載された「『ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム』素描」のことを指していると思われます。

 前出拙稿では2015年から月刊右派論壇誌上で「WGIP」論が存在感を増し始めた現象に着目したため、それより少し先行するこの論文には言及していません。しかし実を言うと、“やはり「WGIP」論はバカバカしいと片付けずにきちんと批判的に分析しておくべきではないか”と私が考えるようになった大きなきっかけが、この西氏の論文なのです。  なぜか。著者である西氏をとりまく人脈から考えて、彼の主張・認識が現実の政治に影響を及ぼす可能性があることが一つ。もう一つは西氏が陰謀論色、反米色をかなり薄めたかたちで「WGIP」論を展開していることです。もちろん、「WGIP」論である以上、戦後の日本人が WGIP に「呪縛」され続けているという主張はなされており、それについて実証的な根拠は示されていません。この点では西氏も他の「WGIP」論者と同様です。しかしその一方、大本営発表には「虚飾」が多かったから国民は WGIP によって隠蔽されていた真相を知ったということも多く、また大日本帝国の意思決定過程に問題があったことも事実である……といった理由で、氏は WGIP を「必ずしも全面的に否定する必要はないように考える」としているのです。

 高橋史朗氏のような陰謀論的性格が顕著な主張とは異なり、西氏のヴァージョンはかなり“見栄え”がよいですから、一般メディアに登場しても違和感を感じないひとが少なくないかもしれません。このような方向性を右派が打ち出してゆくようならば、きちんとした対策をとる必要があるだろう、と考えたわけです。